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ブラックケースウォッチの進化と技術に迫る

オールブラックの時計ケースはモダンさ、ステルス性、そしていわゆる“タクティクール(戦術的な装備や服装などをクールでスタイリッシュなものとして楽しむ文化)”の象徴である。これは何世紀にもわたる、豪華で光沢のある貴金属に対抗するものだ。少し大げさかもしれないが、時計のトレンドが周期的に繰り返されるなかで、ブラックの時計ケースやオールブラックの美学がその持続力を証明してきたことは間違いない。

MB&F HM3 PVD
MB&F HM3 ポイズン ダーク フロッグは、ブラックPVDコーティングを施したジルコニウム製ケースを備えている。

極上スーパーコピー時計代引き専門店そら~この流れが時計業界のどこで始まったのか。ウォッチメイキングにおける多くの素材革新は、技術的な要求から生まれたのに対し、オールブラックウォッチのコンセプトは純粋に美的な観点から来ているようだ。そしてそれは1970年代に強く浸透していった。

Enicar and Porsche Design
 多くの情報源によれば、最初のブラックウォッチケースは伝説的なフェルディナント・ポルシェの発想によるポルシェデザイン クロノグラフ1に起源があるとされている。しかしオン・ザ・ダッシュ(OnTheDash)のジェフ・スタイン(Jeff Stein)氏は、ホイヤーのブラックコーティングモナコに関する2021年のHODINKEEの記事に見解を述べ、異議を唱えている。どうやら、1972年に登場した象徴的なクロノグラフ1よりも前に、エニカが1960年代後半にエニカ シェルパ OPSを発表して数年先取りしていたようなのだ。

Heuer Dark Lord
ホイヤー モナコ “ダーク ロード”は、最も有名なブラックコーティングのヴィンテージウォッチのひとつ。これは2017年にモーガン・キング(Morgan King)氏のコレクションで見られたものだ。

 そして時は流れて現代へ。今日では、さまざまな価格帯や目的に応じて、ブランドがブラックウォッチケースを実現できる多くの製造技術や素材が存在する。今回は、ブラック仕上げを達成するために用いられるコーティングや表面処理に関する3つの主要な方法を紹介していく。後編ではこの分野における素晴らしい素材について取り上げる予定だ。

物理蒸着(PVD)
 物理蒸着(Physical Vapor Deposition)は、時計業界でブラックケースを実現するために最も広く使われている方法だ。この技術はさらに具体的な複数の手法を含む広義の用語であるが、ここでは時計においてよく用いられるアークイオンプレーティングに焦点を当てる。

Hamilton Khaki Field PVD
ハミルトン カーキ フィールド チタニウム オートは、ブラックPVDコーティングを施したケースを備えている。

 真空チャンバー内に、固体状態のコーティング用化合物(ジルコニウムやチタン窒化物が多い)と時計ケースを配置する。チャンバーが加熱されると、アークエネルギーが放出されて、コーティング用の化合物が気体に変化する。この気体がプラズマという状態になり、コーティングの成分にプラスの電荷が与えられるのだ。

 次に、時計ケースにマイナス電圧が加えられる。真空チャンバー内で飛び交うコーティング粒子はプラスに帯電しているため、マイナス帯電したケースの表面に引き寄せられ、薄く均一なコーティングが形成される。これが冷却されれば完成だ! ブラックケースの誕生である。

PVD Machine
アメリカに拠点を置く専門メーカー、ベイパーテック社のPVDチャンバーの一例。

 時計ケースの処理において、耐久性と硬度について触れないわけにはいかない。比較のために、316Lスティールの硬度はビッカース硬度で約150HVである。多くのPVDサプライヤーのウェブサイトを見ると、一般的なPVD処理では2500〜2800HVの硬度が得られるようだ。耐久性の観点から言うと、PVDは今日取り上げる3つの処理方法のなかで最も耐久性が低い。個人的な経験では、私が所有していた多くのブラックPVDコーティングの時計は1年も経たずに摩耗が見られるようになった。これもひとつの魅力かもしれないが、時計のコンディションにこだわる人にはPVDは向かないかもしれない。それにもかかわらず、PVDは生産コストが低いためとても魅力的な選択肢となり得る。たとえばタイメックスやスウォッチのようなブランドでは、PVDコーティングされたSSケースの時計がエントリークラスの価格帯で手に入る。これにより多くの手ごろな価格の時計でブラック仕上げを楽しむことができるのだ。

Brew Watches Metric Black
ブリューウォッチ メトリックはブラックPVD仕上げ。

 近年では生産方法が大幅に改善され、大量生産を効率的に管理できるようになってきた。これによりコストの削減だけでなく、製品の一貫性や品質の向上も期待できる。「最近訪問した製造現場では、生産と結果のボリュームや一貫性を管理するための新しい技術が導入されているのを見て、とても興奮しました」と、ブリューウォッチのデザイナー兼創設者であるジョナサン・フェラー(Jonathan Ferrer)氏は語る。彼は、時計ケースのような部品を真空チャンバーに入れてプレーティング処理を行う前に必要な、数多くの準備工程を明かした。「時間のかかる課題は、すべての部品を手作業でコンポーネントツリーに配置することでした」とフェラー氏は説明する。コンポーネントツリーとは、真空チャンバー内でさまざまな部品を固定するために使われるワイヤーラックである。現在ではこの工程が完全にオートメーション化され、クリーンな環境でのスピードと精度が向上したと同氏は述べている。

Vacuum Chamber
PVDコーティングチャンバー(左)とオートマスキングマシン(右)。

Solution Masking
Images courtesy of Jonathan Ferrer.

 最近改善されたもうひとつのプロセスはマスキングだという。これはコーティングしたくない部品の一部を覆う作業だ。以前の手作業での細かいプロセスに代わり、フェラー氏によれば「今では機械が時計のブレスレットやケースをスキャンし、シリコン溶液を注入して、コーティングや仕上げの前に部品をマスキングしてくれる」とのことだ。これにより従業員が小さな部分をひとつずつテープで覆う必要がなくなった。

ダイヤモンドライクカーボン(DLC)
 では、DLCとPVDの違いは何だろうか? ブラックコーティングされた時計について話すとき、これら2つの仕上げがよく取り上げられる。しばしばDLCのほうが“優れている”と耳にすることがあるが、技術的には両者は同じ基準で比較できるものではない。DLCはコーティング材料であり、その適用方法として物理蒸着(PVD)を使用することもできる。“ダイヤモンドライクカーボン”とは、主に炭素原子で構成されたコーティング化合物を指している。

Chronoswiss Open Gear Resec 'Candy Shop'
クロノスイス オープンギア レ・セック “キャンディーショップ”。DLCコーティングされたケースが最大限の視覚的インパクトを生み出す好例である。

 高校の化学の授業を思い出せば、同じ炭素原子で構成されていても、結晶構造が異なると構造的にまったく異なる結果を生むことがわかるだろう。たとえばグラファイト(黒鉛)の結晶構造は層状になっているため柔らかい。グラファイトの炭素原子の層は互いに強く結びついていないため、個々の層が滑り落ちやすく、まるで鉛筆で紙に書くような性質を持っている。しかしダイヤモンドの場合、炭素原子は非常に密に詰まっており、各原子が周囲の原子としっかり結びついているため、圧倒的な硬さと耐久性が生まれる。

diamond vs graphite structure
炭素原子は、ダイヤモンド(左)とグラファイト(右)では異なる配置になっている。出典はこちら。

 “ダイヤモンドライクカーボン(DLC)”はコーティング材料の観点から見ると、ダイヤモンドとグラファイトの両方の有用な特性を活かした中間的な存在と考えるとよい。純粋なDLCはsp³結合の炭素原子(ダイヤモンドの構造)のみで構成されることもあるが、時計の外観仕上げに使われるDLCにはsp²結合の炭素原子(グラファイトの構造)も含まれている可能性が高い。このようにすることで、硬度を実現しながら摩擦係数を低く抑えることができる。これらの特性を組み合わせることで、より耐久性の高い表面が得られるのだ。

MRG 5000 on rubber strap
G-SHOCKのハイエンドラインであるMR-Gシリーズのふたつのモデルでは、DLCコーティングがまったく異なる仕上げを実現している。MRG-B5000R-1では、DLCコーティングがアンスラサイトでマットな質感を持っている。

MRGB5000 Dat 55G
MRG-B5000B-1では、DLCコーティングが濃く、光沢のある仕上げとなっている。

 DLCコーティングの場合きわめて傷が付きにくい仕上げが得られ、炭素の混合比によってマットなアンスラサイトから深い光沢のブラックまで幅広い仕上げが可能である。サプライヤーのウェブサイトを見てみると、DLCコーティングの硬度は一般的に5000〜9000HVの範囲にある。参考までに、ダイヤモンドはビッカース硬度で1万HVとされている。

Unimatic Norwegian Rain
ウニマティック×ノルウェージャンレインによるU1-NRは、2021年にリリースされたコラボレーションモデルである。

 では、なぜすべてのブランドがDLCコーティングを使って、より高い耐久性を確保しないのか?

 主な理由はコストだ。私はミラノに拠点を置くウニマティック(設立当初からDLCコーティングをデザインに取り入れている)の共同創設者のひとりであるジョバンニ・モロ(Giovanni Moro)氏に話を聞いた。ジョバンニ氏は早くからブラックアウトのトレンドに魅力を感じていたと振り返り、個人的に所有しているオメガ スピードマスターにコーティングを施すことを考えていたという。DLCによる硬度の向上は望ましいが、同品質の仕上げを標準的なPVD化合物で行う場合と比較して、コストが最大で350%も高くなることがあると指摘する。それでも、ブランドはブラックケースの製品にDLCを使用することにこだわっている。

セラマイズドチタン
 最後に、現代の時計ケースで見られる表面処理のひとつにセラマイズドチタンがある。理論的には、その名のとおり両方の素材の優れた特性を兼ね備えている。セラミックの高い耐傷性と、チタンの構造的強度を維持することができるのだ。

Hodinkee x IWC
IWC パイロット・ウォッチ・マーク XVIII “ホディンキー”限定モデルはセラタニウム製である。

 最も有名なのはIWCの商標であるセラタニウムだろう。2017年に初登場したアクアタイマー・パーペチュアル・カレンダーで見られたものだ。しかし、セラマイズドチタンが特別な理由はそれがコーティングではなく(必ずしも)、ベース素材を指しているわけでもないという点だ。混乱しているだろうか? 詳しく説明しよう。

 DLCやPVDでは、別の化合物をイオン化して時計ケースに付着させるプロセスが用いられるが、IWCのセラタニウムのような素材ではまったく別の手法が使われている。ここでは、最初に切削加工されたチタン製のウォッチケースを使用する(IWCは独自の合金を採用しており、この点については後ほど詳しく触れる)。ケース(およびリューズ、プッシャー、バックルなど)の部品処理の準備が整うと、それらは窯に入れられる。ここで高温で焼成され、錬金術とも呼べる工程が進行する。IWCによれば、この次に起こるのは“相転移(金属の表面がセラミック化されること)”であるという。このステップによりパーツは非常に均一でマットな黒色となる。その響きは魅力的だが、実際には何が起こっているのだろうか?

Kiln firing
チタン合金の部品は窯で焼成され、酸化処理が行われる。

 2002年に出願されたこの米国特許は、IWCが使用するプロセスに似た方法を示しており、その背後の仕組みが垣間見えるようだ。同特許の発明者であるエドワード・ローゼンバーグ(Edward Rosenberg)氏いわく、“黒い装飾表面を持つ金属製品を形成するプロセス”には、重量比で“約51%から70%のチタン、約3%から17%のニオブ、および残りはジルコニウム、タンタル、モリブデン、ハフニウム・ジルコニウム、クロム、またはそれらの混合物からなる金属”が必要であると述べている。これらはIWCが現在使用している独自の合金を構成していると推測されるが、詳細は誰にも分からない。

 加熱の過程で、合金内のいくつかの金属が窯の酸素豊富な環境で酸化を始める。この過程で、合金からセラミックの層が成長してチタンがセラミック化される。この方法の特徴として、このセラミック層は酸化されていない下層のチタン合金と非常に強く結びつき、蒸着法と比較して剥がれにくくなる。PVDをベビーベルチーズの赤いワックスの包みと考えるなら、このセラミック化は美しいサワードウ(パン)のクラスト(パンの薄い皮の部分)が形成されるようなものだ。

 私は、高級メカニカルキーボードの製作者であり、素材にも詳しい友人のライアン・ノーバウアー(Ryan Norbauer)氏とセラタニウムについて話した。彼によると、アルミニウム製のキーボードに対して非常に耐久性があり、見た目も均一なセラミック層を形成するためにマイクロアーク酸化というプロセスを試し、PVDと同じように仕上げが磨耗しないような同様の仕上げを検討していると話した。マイクロアーク酸化は、主に消費者向け電子機器で使用され、セラタニウムのプロセスに似た結果をもたらすが少し異なる方法を用いる。このプロセスでは、熱処理の代わりに、アルカリ浴に浸した金属にアーク放電を撃ち込む電気化学的な処理が行われる。これらの違いを考慮すると、エドワード・ローゼンバーグ氏の特許が注目されるのは、“化学薬品、電解質、電気、複雑な熱処理装置を必要としない”ことにある。皮肉なことに、時計業界で現代的な素材として認識されているものが、意図的によりシンプルで原始的な方法で作られていると考えられるのだ。

Ceratanium Lifecycle
特殊なチタン合金の素材がセラタニウムケースへと変わっていく工程。

 では、セラタニウムの硬度はどれくらいなのか。IWCはこの素材の硬度を公表していないが、形成された外層が実際にセラミックであるため、PVDのようなものと比較してはるかに耐傷性が高いと言ってよいだろう。インターネット上では、セラタニウムに傷が付いたと主張する人もいるが、多くの場合セラミックやセラミック層に見られる傷は、実際にはほかの物体から金属がケースに付着したものであり、最終的には除去できることが多いようだ。主な原因はバネ棒を外す際の工具であることが多いようだが、本当にセラミック層を貫通するような傷がついた写真を見かけたことはほとんどない。現行のセラタニウム製の時計が期待どおりの状態を保ち続けるかどうかは、今後の経過を見なければ分からない。ただ現時点では、単なるマーケティング戦略以上のものであり、実際に時計製造において目に見える利益をもたらす独自の素材であるようだ。

オリス ダイバーズ65 LFP リミテッドエディションが登場

オリスはコラボレーションにおいて豊富な経験を持つブランドだ。持続可能性を重視するブレスネット(Bracenet)との提携から、私たちにとってなじみ深いしゃべるカエルとのコラボまで、ホルシュタインを拠点とするこのブランドは一切の躊躇いもなくユーモラスなデザイン要素を取り入れた製品をリリースし続けてきた。

Oris Kermit
昨年発表されたオリスのプロパイロットX “カーミットエディション”。

最信頼性のスーパーコピー時計代引き優良サイトこの流れは今なお継続しており、オリスはジュネーブ・ウォッチ・デイズの期間中にフランスのプロサッカーリーグ(LFP)およびCNAPEとのコラボレーションで、ダイバーズ65の1000本限定モデルを発表した。オリスは2022年からLFPをサステナビリティパートナーとして迎え入れ、それ以来LFPの公式タイムキーパーを務めている。

les defenseurs l'enfance
the team
 CNAPE(フランスの児童保護団体連盟)は子供の福祉問題に取り組む約200の団体からなる連盟であり、同団体によればフランス国内の40万人以上の子供に関わり、影響を与えているという。CNAPEの主な役割は、傘下の団体が直面している問題を代弁するアドボカシー活動を行うことであると私は理解している。

 CNAPEはLFPのチャリティパートナーであり、両者は毎年Tournoi des Défenseurs de l'Enfance(直訳すると、子供の守護者たちのためのトーナメント)と呼ばれるフットボールトーナメントを開催している。このイベントは子供たちや福祉関係者にとって楽しい週末を提供するとともに、CNAPEが支援する団体のための資金を調達するものである。今年、オリスはこの10本の時計を寄付し、このチャリティのための募金活動を行う予定だ

LFP Wrist Shot
 さて、時計そのものに話を戻そう。今回の限定版はレトロなデザインにインスパイアされたダイバーズ65をベースにしており、過去のバージョンを実際に見たことがあるなら、いくつかの要素に見覚えがあるはずだ。昨年にリリースされた同サイズのステンレススティール(SS)製ダイバーズ65 “コットンキャンディ”の所有者として言えることは、この時計は非常に手首になじむということである。

 時計内部にはオリスのCal.733が搭載されている。このムーブメントはセリタSW200をベースにしたものであり、より高価な自社製のCal.400ではなくセリタベースのムーブメントを採用したのは妥当な選択だと思う。特に若い層をターゲットにした楽しいデザインの時計であることを考えると、価格がオリスのラインナップのなかでも手ごろな範囲に収まっている点は評価に値する。販売価格は44万円(税込)だ。

 ケースのサイズは38mmと非常にバランスがよく、ヴィンテージ風のダイバーズウォッチとしては理想的だ。厚さは12.8mm、ラグからラグまでの長さはコンパクトな46mmであり、手首に非常にフィットする。数値上は薄型の時計ではないがこの厚さにはドーム型サファイアクリスタルが影響しており、実際のケースはよりスリムに感じられる。この時計においてとりわけ議論の的になるであろうポイントはリベットブレスレットだが、これはダイバーズ65のデザインをまとまりのあるものにしている。ブレスレットは薄いながらも頑丈で、クラスプも目立たず5段階のマイクロアジャストが可能である。

Oris LFP Side Profile
リベット付きのブレスレット。

Oris Bracelet Clasp
クラスプに手書きの文字を刻印すれば、素晴らしい演出になっただろう。

 従来モデルではケースバックにヴィンテージに見られるオリスロゴがあしらわれており、ヴィンテージ風のデザインをさらに強調している。しかし今回はケースバックに遊び心ある“les Défenseurs de l'Enfance”のロゴが刻まれ、さらにLFPリミテッドエディションであることと、1000本限定であることを示すシリアルナンバーが記載されている。

LFP Caseback
 ダイバーズ65の特徴的なデザイン要素のひとつに、SS製のエンボスベゼルがある。ケース上部のブラッシュ仕上げと組み合わせることでエンボス部分が際立ち、マットなベゼルとのコントラストが美しく仕上がっている。このように単色でありながらも視認性が高く、印象的なエンボスベゼルが実現されている。ベゼルのルックスには若干の遊びがあるが、操作感はシャープで触感も良好そのものだ。

 しかしこのコラボレーションを真に特徴づけているのは、やはり文字盤だろう。最近では、“遊び心のある”という表現がイースターエッグのような隠し要素を説明する際によく使われるが、この文字盤はその言葉をまさに体現していると言っていい。オリスは通常あしらっているブランドロゴを大きく逸脱し、子供の手書き文字らしいエッセンスを捉えた書体を採用している。ロゴに加えて文字盤上のすべての印字も光沢のある手書き風のスタイルでプリントされているが、オリスのロゴほど強調されてはいない。“Water Resistant(防水)”の表記は5色に分けられており、各文字盤にこの多色使いの文字をパッドプリントするにはかなりの手間がかかっているはずだ。これは、このトーナメントのロゴに対するオマージュにもなっている。

Oris LFP Dial
Oris LFP Dial Closeup
 この時計に採用された光沢のあるネイビーダイヤルは、控えめでありながらも論理的な選択になっている。というのも、この色もまた同トーナメントに特徴的なカラースキームを取り入れているからである。オリスによればこの色は、国連が示す17の持続可能な開発目標(SDGsだ)のひとつを象徴しているという。文章で説明されると少しこじつけのようにも感じられるが、本機の初期のムードボードにおいてこの色が重要な要素として扱われていたことは容易に想像できる。室内において文字盤は滑らかで濃い青に見えるが、屋外に持ち出すと文字盤はたちまち輝きを放ち、ラッカーの下からメタリックな色調がわずかに現れる。この動的な視覚の変化には意外性がある。

 ほかのダイバーズ65と同様に立体的なインデックスが文字盤に奥行きを与えており、金属の縁の内側には白いスーパールミノバが充填されている。これにより、ミニッツトラックや多くの文字要素が白でプリントされた文字盤とインデックスが調和している。デイト表示は6時位置に切り抜かれた窓で配置された。私は基本的にデイト窓のある時計が好みだが、今回に関してはそれがないほうがよかったかもしれないと思っている。それというのもカレンダーディスクに印刷された一般的なデイト表示が、文字盤全体のスタイリッシュなテキストと対立しているように感じられるからだ。コットンキャンディモデルでは気にならなかったが、このモデルではデイト表示がないほうがデザインとしてより完成度が高かったかもしれない。もしくはカレンダーディスクの色を文字盤に合わせていても、より素晴らしい結果になっただろう。

Oris LFP
明るい光の下では、光沢のあるラッカーの下にほんの少しメタリックな輝きが見える。

 総合的に見て、このオリスのリミテッドエディションは大成功だと思う。遊び心がありながらも過剰になっておらず、毎日つけられる特別な1本になっている。私がこの時計を見せた同僚たち全員が感心していたが、その理由は抑制の効いたデザインバランスにあると考えている。遠くから見れば装飾的な要素に気づくことはあまりないが、近くではそれらのディテールが急に魅力的に映るのだ。こんな時計がオリスのようなブランドから出るとは誰も思っていなかっただろうが、そんなブランドの存在自体をうれしく思うし、デザインの背景に確固たる理由があることも素晴らしいと思う。これは独立系ブランドから初めての高級ダイバーズウォッチを求める人にとってぴったりの選択肢であり、実際に誰かがこの時計を身につけているのを見かける日が楽しみでならない。

オリス ダイバーズ65 LFP リミテッドエディション Ref.01 733 7771 4085-Set。直径38mm、厚さ12.8mm、ラグからラグまで46mmのSS製ケースを採用。ミニッツトラックをエンボス加工した逆回転防止ベゼル。限定モデルならではの特別なディテールを施したブルー文字盤、6時位置にデイト表示窓。スーパールミノバを施した針、ロリポップ秒針、インデックス。内側に無反射コーティングを施したダブルドーム型サファイアクリスタル。1000本限定生産のシリアルナンバー入りSS製ケースバック。自動巻き、41時間パワーリザーブを持つオリスCal.733(セリタベース)。価格:44万円(税込)。

ブルガリから3つのチャイミングウォッチ登場、

ブルガリが3つの新しいチャイミングウォッチを発表した。新作ではなく再発明と言えるような代物だ。

トリオのなかで最も複雑ではない(とはいえ決してシンプルでもない)モデルは、フルカーボン仕様で復活したオクト フィニッシモ ミニッツリピーターだ。このサイトを長く読んでいる方なら、2018年にブルガリがこのモデルの初版であるオクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボンを発表し、史上最も薄いミニッツリピーターとして記録を打ち立てたことを覚えているだろう。ただし、その時計は50本限定のエディションだった。そこでブルガリはこの記録破りの時計を、よく似た新しいエディションとして復活させた。見た目には、多くの要素がオリジナルと同じで、カーボン製のダイヤルにはインデックスのためのカットアウトがあり、フルカーボンのケースとブレスレット、そして6時位置にはスモールセコンドが配置されている。

of front
of back
最信頼性のブルガリスーパーコピー代引き優良サイト新モデルでの変更点は、すべて美観に関するものだ。ミニッツリピーターの黒いプッシュボタンとリューズは、オリジナルのマットなダークチタン仕上げからサテンとポリッシュ仕上げに変更され、リューズの側面にはブラックセラミックのインサートが追加されている。また、針はオリジナルモデルのマットなビードブラスト仕上げからサテンポリッシュ仕上げにアップデートされた。ただし40mmの多層構造CTP(Carbon Thin Ply)ケース、6.85mmの厚さ、そして記録を持つマニュファクチュールBVL362ムーブメントはそのまま引き継がれている。

さらに複雑さを増す次のモデルはオクト ローマ カリヨン トゥールビヨンのアップデート版だ。今年のリリースではモダンでアヴァンギャルドなデザインを保ちつつ、サテンポリッシュ仕上げのローズゴールドケースを採用することで、わずかに伝統的な要素が取り入れられている。カリヨンリピーターになじみのない方のために説明すると、従来のミニッツリピーターがふたつのゴングとふたつのハンマーを使うのに対し、カリヨンは3つのゴングと3つのハンマーを使用する。ひとつのハンマーが時を打ち、3つのハンマーがクォーター(15分ごと)を打ち、ひとつのハンマーが分を打つため、より音楽的な響きを持っている。

carollion side profile
この時計のケースは44mmで、厚さは12.6mmだ。ダイヤルは大部分がオープンワークで、マットなサンドブラスト仕上げのDLCコーティングが施され、ハンマーとゴングのためのカットアウトや、ダイヤル側に露出したトゥールビヨンブリッジが特徴である。ケースの側面を見ると、このモデルの象徴であるチタン製のミドルケースが引き続き使用されていることが分かる。時計を裏返すと、サファイアガラス越しにさらに多くのオープンワークが見られ、チャイミング機構が時間を機械的に読み取るためのラックやスネイルが確認できる。ムーブメントプレートのくぼんだ部分にはパワーリザーブインジケーターが配置されている。ムーブメントの部品はサテン仕上げとポリッシュ仕上げのメタルで構成されており、マットな質感のブリッジやプレートと対照的な仕上がりになっている。オクト ローマ カリヨン トゥールビヨンは34万ドル(約4960万円、正式な日本価格は要問合せ)で、30本限定のモデルだ。 

carillon caseback
最後に、そして確実に目玉となるのが新しいオクト ローマ グランソヌリ トゥールビヨンである。この時計にはさらにもうひとつのハンマーとゴングが追加され、合計で4つのハンマーとゴングが搭載されている。過去数年間、ブルガリからは永久カレンダー機能を搭載したグランソヌリがいくつかリリースされてきたが、今回は“少し控えめ”に、4つのチャイムを持つグラン&プチソヌリ、ミニッツリピーター、そしてトゥールビヨン機構のみを備えている(とはいえ、それでも十分に複雑な仕掛けだ)。

grand sonnerie
グランソヌリって何? と思う方もいるかもしれない。この時計にはミニッツリピーターの複雑機構に加えて、いくつかのモードがあるのだ。そのうちのひとつがグランソヌリモードで、このモードでは手巻き式のCal.VV 800が1時間、15分が経過するごとに自動的に時報を鳴らすのである。また1時間、15分、1分単位で任意の時間に繰り返し鳴らすことも可能だ。4つのゴングとハンマーで4分の1拍子が鳴らされ、単純な“チン”という音ではなく、ちょっとした音楽のようなフレーズを奏でる。一方、プチソヌリモードでは毎正時だけが鳴る。まったく鳴らさないモードもあり、これはカシオのアラーム音を消すような感じで、控えめな機能だ。

grand sonnerie caseback
今回のモデルでは、これまでのバージョンとは異なり、ダイヤルが弟分であるカリヨン トゥールビヨンと非常に似たデザインになっている。グレーPVD仕上げのダイヤルは、同じオープンワークデザインが施されていて、フライングトゥールビヨンは10時位置に配置されている。4つのゴングは7時位置にあり、オープンワークダイヤルのスリットの背後には、ムーブメントとパワーリザーブの残量を示すふたつの赤いセグメントが見える。これらをすべてまとめているのは、45mmのサテンポリッシュ仕上げのチタンケースで、厚さは11.85mm。価格は“要お問い合わせ”となっており、限定5本のモデルである。

lorenzo viotti
ル・サンティエにあるブルガリのマニュファクチュールでのロレンツォ・ヴィオッティ(左)。

ここで注目すべきは、ふたつのオクト ローマモデルにおける新たなチャイム音の再解釈だ。ブルガリはこれまでもユニークなチャイム音で知られており、2021年にはカリヨンのチャイムがウェストミンスターの鐘を反映していたこともあった。今回ブルガリはさらに斬新なアプローチを取り、イタリア・スイスの指揮者ロレンツォ・ヴィオッティに協力を求めた。これらふたつのオクト ローマでは、ブランドと指揮者がトライトーンを採用している。これは増4度または減5度としても知られ、特に“悪魔の音程”としても有名な不協和音的な響きを持つ音程だ。

このコンセプトを深く掘り下げるには別の記事が必要となるが、ブルガリはこのアイデアについて、デザインの調和とチャイム音の緊張感とのあいだに聴覚的なコントラストを作り出したかったと述べている。多くのチャイミングウォッチは顧客にとって最も心地よい音を作り出そうとするものだが、この時計の録音を聞いた限りではこの新しいアプローチは非常に興味深いものだと思う。この音は決して不快でもなく、衝撃的でもないが、この業界ではあまり耳にしない音だ。ウルトラモダンでアグレッシブなデザインが特徴のこのふたつのオクト ローマモデルにおいては、確かにこの音調が手首につけた際の見た目と調和するかもしれない。

bvl800 movement
我々が考えること
もしどれかひとつを選ぶとしたら、私のお気に入りはオクト フィニッシモ ミニッツリピーターだ。確かに今日紹介された3モデルを見比べると、ゴングをふたつ持つこのモデルを選ぶのは正気の沙汰ではないように思えるかもしれないが、ときには薄さという要素自体がひとつの複雑機構としてもっと評価されるべきだと思うことがある。この3つのなかで、実際に一番身につけたいと思うのはこのモデルだ。しかし忘れてはならないのは、オクト フィニッシモ ミニッツリピーターが22万4000ドルで再登場していることだ。2018年に50本限定で16万ドルだったこの時計が、今では40%値上がりしているわけだ。正直なところ、定価に対してコストパフォーマンスを語るのはもはや意味がない領域に達していると思う。そのため、ブルガリが22万4000ドルで売れる市場があると考えているなら、それについては彼らのほうが私より詳しいに違いない。

結局のところ、これらの時計は一般の顧客をターゲットにしているわけではなく、製造数も非常に限られている。だから、これらのリリースを機械的な芸術作品として捉え、その文脈で見てみるべきだと思う。私はこれらの時計を、時計というよりも彫刻作品のように扱っている。オクト ローマのラインナップは、ここ最近ブランドからかなりの注目を集めており、過去1年ほどで幅広いリフレッシュが行われ、オクト ローマ ストライキング パピヨン トゥールビヨンのような複雑機構が追加されている。この流れを続けるのは当然のことであり、ブルガリが超複雑なグランソヌリやカリヨンの機構を自社工房で存続させ続け、時計製造の技術力を示していることを嬉しく思う。これができるブランドはそう多くないのだ。

詳細
オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボン

型番 103986。40mm カーボンTPケース(厚さ6.85mm)。ポリッシュ仕上げのチタン製リューズにブラックセラミックのインサート、サテンポリッシュ仕上げのチタン製プッシュボタン、シースルーバックが特徴。防水性能は1気圧。カーボン製ダイヤル、サテンポリッシュ仕上げとロジウムコーティングが施された真鍮製の針を採用。カーボン製ブレスレットには一体型のフォールディングバックルが付属。

BVL362は、超薄型の手巻きメカニカルムーブメントで、ミニッツリピーターとスモールセコンドを搭載。パワーリザーブは42時間で、振動数は2万1600振動/時(3Hz)だ。

オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン

型番 103933。 44mmのローズゴールドケース(厚さ12.6mm)。サテンポリッシュ仕上げのローズゴールド製リューズにはブラックセラミックのインサート、サテンポリッシュ仕上げのローズゴールド製プッシュボタンとシースルーバックが特徴。防水性能は3気圧。ダイヤルは真鍮製で、ブラックDLC処理が施されたサンドブラスト仕上げのオープンワークデザイン。ブラックアリゲーターストラップにはローズゴールド製のフォールディングバックルが付属。

BVL428マニュファクチュール製の手巻き式メカニカルムーブメントで、オープンワークのブリッジ、ミニッツリピーター、3ハンマーのカリヨン、トゥールビヨン、パワーリザーブインジケーターを搭載。パワーリザーブは75時間で、振動数は2万1600振動/時(3Hz)。

オクト ローマ グランソヌリ トゥールビヨン

型番 103962。45mmのチタンケース(厚さ11.85mm)。サテンポリッシュ仕上げのチタン製リューズにはブラックセラミックのインサート、サテンポリッシュ仕上げのチタン製プッシュボタンと トランスパレントケースバックが特徴。防水性能は3気圧。ダイヤルは真鍮製で、グレーDLC処理が施されたサンドブラスト仕上げのオープンワークデザイン。ブラックアリゲーターストラップはチタン製のフォールディングバックル付き。

BVV800は、マニュファクチュール製の手巻き式メカニカルムーブメントで、グランソヌリとプチソヌリ、ミニッツリピーター、4ハンマーのチャイム、ムーブメントおよびチャイム機構のパワーリザーブインジケーター、トゥールビヨンを搭載。パワーリザーブは72時間で、振動数は2万1600振動/時(3Hz)。

価格 & 発売時期
価格: オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン、16万4000ドル(日本価格は要問い合わせ)。 オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン、34万ドル(日本価格は要問い合わせ)。オクト ローマ グランソヌリ トゥールビヨン、要問い合わせ。
限定: オクト フィニッシモ ミニッツリピーター カーボン、なし。オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン、30本。オクト ローマ グランソヌリ トゥールビヨン、5本

パテック フィリップが発表したなかで最高のカラトラバだ。

近この世界に足を踏み入れた方にとっては、つまりこの17年間で最高のカラトラバということになる。私の友人であるChatGPTによれば、この17年というのは“1世代”といっても差し支えないらしい。もちろん、これは私の(それほどでもないが)謙虚な意見に過ぎない。いやほんとに、これは本当にやってくれた。彼らは見事な一作を送り出してきた。とはいえ、まずは少し立ち止まってこの時計を全体から見てみよう。

38mm、プラチナ、ローズオパラインダイヤル、最高のムーブメント。これは文句なしだろう。

カラトラバの歴史や、その重要性についてはいまさら語るまでもない。ただ、もしこの15年、私の時計話に付き合ってくれていた読者なら、パテックのタイムオンリーラインには、ずっと遠回しに皮肉を言ってきたのを覚えているかもしれない。というのも搭載されていたムーブメントは、正直、笑ってしまうくらい時代遅れだったし、パテック フィリップのドレスウォッチとして、さらにはこの価格帯の時計としても到底納得できるレベルじゃなかったからだ。

だからこそ、2014年に我々が最高のドレスウォッチを選んだとき、パテックは候補にすら入らなかった。ヴァシュロン、ジュルヌ、ランゲは、どこを取ってもパテック以上に見どころのある時計をつくっていたし、当時2万ドルちょっと(当時のレートで約210万円)だったカラトラバよりもずっとコストパフォーマンスが高かった。我々はその事実をはっきりと示したかったのだ。

ランゲに心底惚れたきっかけがこの動画だった。エントリーモデルにだって、グランド・コンプリケーションと同じレベルのこだわりが詰まっている。その姿勢はいまもまったく変わらない(あのリシャールミル時計コピー 口コミ第1位“最高にイカした”34mmの1815を見ればわかるだろう)。そしてこの動画こそが、クロノメーター・ブルーという時計がどれほど素晴らしいかを、初めて世に知らしめた作品でもあった。以来、私はずっと言い続けてきた。ランゲのすごいところは、どのクラスを選んでも品質に一切の妥協がないことだ。

では2014年当時のパテックは? 少なくともムーブメントに関して、同じことは言えなかった。というのも、1974年に発表された10リーニュの小型ムーブメント、Cal.215が当時でも平然と使われ続けていたからだ。これがあの美しいRef.5196、手巻きカラトラバのデザインとは裏腹に、サイズバランスに違和感を生んでいた最大の理由だった。ここで今日、Watches & Wonders 2025の初日で私が一目惚れした新作にバトンを渡そう。

Ref.5196Pはダイヤルデザインは素晴らしかったものの、あのスモールセコンドのせいで評判はいまひとつだった。

素敵だろう? 薄型のプラチナケースに、ブレゲ数字を配したツートンダイヤル。これぞパテックがつくる最高のタイムオンリーみたいな顔つきだ...まあそう思うのも、ベースになった時計、同じ構成のスティール製Ref.570を見るまではだが。

Ref.5196Pのベースとなった、最高にクールなSS製Ref.570。

さて、スモールセコンドの位置に気づいただろうか? そう、5196では中央寄りに無理やり押し込まれていて、ダイヤル全体とのバランスが完全に崩れていたのだ。明らかに上すぎる! 理由は単純。ムーブメントのサイズは10リーニュ、直径にして約22mmしかないのに、ケースは37mmもあったからだ。

Ref.3919は1985年に発表された。これがまた実に80年代っぽい。でもどこかとびきりシックで、ダイヤルのバランスも見事だった。

ただ、バランス感覚がどうにも悪かったのだ。その理由はさっきも言ったとおり、このムーブメントが1974年のものだったから。ただ誤解しないで欲しい。当時としては、Cal.215は十分に理にかなっていた。いやむしろこのキャリバーの最良の使い方は、“究極のバンカーズ(銀行家向けの)ウォッチ” Ref.3919だったとすら思う。80年代後半らしい33mmの小径にホブネイル(クル・ド・パリ)装飾など、すべてがシックだった。1985年発表だから時代にはぴったりだったわけだ。だがHODINKEEが生まれ、細部にこだわって時計を語るようになった35年後となると話は別である。VCやジュルヌ、ランゲが、その時代に見合った美しい手巻きムーブメントをどんどん発表していったときに、さすがにCal.215は太刀打ちできなかった。

Cal.215のスペックは直径22mm、厚さ2.5mm、部品点数130個、18石、2万8800振動/時、パワーリザーブ約44時間。このムーブメントは5196の全バリエーションに採用されていたし、すでに5196はカタログ落ちしている。でも信じられるか? パテックは今でも、このキャリバーを4モデルで使い続けている。しかもその搭載モデルの最大ケースサイズは31mm×34mm。つまりパテック自身、Cal.215は小型ケースでこそ生きると、きちんと分かっていたというわけだ。

古きを捨て、新しきを取り入れよ。

そして2021年、Ref.6119Gが登場した。こちらもカラトラバで、ホブネイルベゼルを備えている。このモデルはRef.5119の後継で、Ref.5196と同様にCal.215PSを搭載していたため、スモールセコンドがダイヤルの上部に寄りすぎていた。しかしこのモデルから新しいCal.30-255PSが採用されたのである。これは、本当に、本当に大事件だった。私はその年のWatches & Wondersには参加していなかった(生まれたばかりの娘の世話でお休みしていたからだ。愛してるよ、ジョージー!)。このムーブメントが登場したことで、パテックのタイムオンリーウォッチに対する信頼が再び蘇った。Cal.30-255PSは見事な大判のブリッジに、幅広のジュネーブストライプ、最大65時間のパワーリザーブを生むツインバレル構造、さらに驚くほどの薄さとなる2.55mm厚という美しい仕上がりであった。Ref.6119G/Rは非常に人気の高いモデルとなり、私の知る限り、カラトラバへのコレクターの関心は一気に高まった。実際に定価での入手が難しいというのは、少なくとも私がこの仕事を始めて以来初めてのことだった。

Ref.6119Rと6119Gは、このアップグレードされたムーブメントを初めて搭載したモデルであり見事に仕上がっていた。これが2021年、カラトラバ人気復活のきっかけになったことは間違いない。

そして、つい昨日、パテック フィリップは6169という新たなカラトラバを発表した。リッチ(・フォードン)がIntroducing記事を担当したが、反響はすこぶる好評だった。気に入らないはずがない。38mmの薄型プラチナケース、美しい新型の手巻きムーブメント、ローズギルトのオパラインダイヤル、そこにアンスラサイトカラーのホワイトゴールド製ファセット仕上げの“弾丸(オビュ)”風アプライドインデックスが組み合わされているのだから。

隠すまでもないが、私はサーモンカラー好きだ。なんたって同じ色のダイヤルを持つ5270Pを所有しているのだ。そのためRef.6169Pを実際に見れば、きっと気に入るだろうと思っていた。でも実物を見た瞬間、完全にやられてしまった。

似合っているだろう?

この時計は、言ってしまえば完璧だ。ケース、サイズ、ムーブメント、そしてダイヤル。そのすべてがパテック フィリップのエントリーモデルにもう1度恋するために必要な要素だった。シンプルなパテックに憧れて、もう何年も経つ。ただそのせいで正規店で買ったことは一度もない。しかしこの時計は違う。私は欲しいし、多くの人もそう思うに違いない。

スモールセコンドの収まりも秀逸だ。

そうだ、スモールセコンドも触れておこう。まさにダイヤルのしかるべき場所に収まっている。おもしろいのは、パテックが5196の最後のプラチナバージョンに見られたマルチトーン&ブレゲスタイルではなく、5196G(WG)にそっくりのダイヤル構成を採用したことだ。私はこの変更、大歓迎だ。

文句なし。

このダイヤルのトーンは驚くほど温かみがあり、どこかカジュアルですらある。そしてこれが私の普段の服装(昨日もそうだった)と驚くほどよく合う。だからこそ、この時計は私のなかで“素晴らしい”から“ここ17年間で最高”にまで昇格した。技術的に優れているだけでなく、美しさの面でも完璧だ。ここ最近のパテックに欠けていたのは、まさにこの美しさだと思う。そう、君のことだ、5822P。

さて、このムーブメントが実に素晴らしいって、もう言っただろうか? 本当にそうなのだ。シースルーバック越しに、大きく、美しいパテック フィリップ・シールが刻まれたムーブメントが見える。もしあえて文句を言うなら、個人的には、見た目のためだけにもう少し大きなテンワが欲しいくらい。でも私に言える粗探しなんてその程度だ。この時計はとにかく素晴らしい。

ケースいっぱいに広がるムーブメント!

私がRef.6196Pにこれほど強く心を動かされた理由はいくつもある。過去へのオマージュ、クラシカルなケースに収められた新ムーブメント、そして私が好むカラーリング。それらすべてが私にとって大切な要素だ。なかでも最大の理由は、Ref.6196Pをとおして、パテック フィリップがシンプルで美しいタイムオンリーウォッチをつくるブランドであるという信頼が自分のなかでよみがえったことだ。ここ10年ほど、パテックは複雑さの少ない時計でどこか“格好よさ”を追い求めているように感じていた。もちろん、その多くを私は高く評価しているが、正直に言えばそれをもっと上手にやっているブランドはほかにもある。

私がパテックに求めているのは、美しさとエレガンス、そして時代を超える存在感だ。だが今日に至るまで、5万ドル(日本円で約730万円)以下の価格帯でそれを達成していると言える時計は(少なくとも個人的には)あまりなかった。なおSS製のスポーツウォッチは今回は別枠としよう。パテックは、もちろん素晴らしい時計をつくってきたが、タイムオンリーというカテゴリーに限れば2014年の動画で取り上げたブランドのほうを、ムーブメントの質もデザインの純粋さも理由に薦めたくなることが多かった。でも今日からは違う。もし6196Pを手に入れることができたなら、それは間違いなく今手に入るタイムオンリーウォッチのなかでも文句なしに最高の1本になるだろう。

さて、価格は? 746万円(税込)だ。決して安くはない。同じ日に、あのドイツ勢が似た雰囲気の34mm径の美しい時計を、プラチナではなくゴールドとはいえ2万5400ドル(日本円で約380万円)で発表しているのだからそう思うのも無理はない。とはいえ私にとってはいつだって、プラチナケースのパテック フィリップ、特にこれほど美しいモデルには特別な存在感がある。ちなみに6196Pは、キュビタスよりも多くの若い新しい顧客をブランドに引き寄せると信じているが、その話はまた別の機会にしよう。

Watches & Wonders 2025の2日目となる今日、私はジュネーブのパテック フィリップチームに心から伝えたい。みんな、本当に素晴らしい時計をつくってくれた。私はこのブランドにもう1度惚れ直した。そしてこれは、私だけの想いではないはずだ。我々のあいだではパテック フィリップの時計が本当に心に響いたとき、こう言うことにしている。“これが本物のパテック”だと。2526、3700、5970、570...そうした時計たちのように。そして6169Pは間違いなくそのひとつだ。

カルティエはWatches & Wonders 2025において、ジュエリーウォッチの新作コレクションを一挙に発表した。

彫刻のようなトレサージュコレクションをはじめ、大胆なハイジュエリーでもあるパンテールバングルや、アイコニックなパンテール ドゥ カルティエの新たなジェムセッティングモデルなど、多彩な新作がそろった。これらの発表は、カルティエのシグネチャーであるアイコンたちを軸とした商業的な基盤を堅持しつつ、彫刻的なデザイン、複雑なジェムセッティング、そして独創的なケース構造への継続的な挑戦というふたつの方向性を色濃く反映している。

カルティエの新作トレサージュ(フランス語で編み込みの意)は、ボリュームとテクスチャーを巧みに融合させた興味深いコレクションである。ケースは縦長のレクタンギュラー型(56.2×25.7mm、厚さ11.5mm)で、2本のアシンメトリーなツイストが巻き付く独特のデザインが特徴だ。なおコレクションは全4モデルで展開。ブラックラッカーダイヤルに光沢のあるブラックストラップを組み合わせたイエローゴールドのミニマルタイプ、916個(計12.2ct)のダイヤモンドを全面にパヴェセッティングしたホワイトゴールド仕様にネイビーストラップを組み合わせたモデル、466個(計6.3ct)のダイヤモンドを配したミックスゴールド仕様、そして570個(計5.7ct)のダイヤモンドと330個(計5.9ct)のサファイアを組み合わせ、豊かな色彩効果を生んだWG仕様の4つだ。すべてクォーツムーブメントを搭載し、30mの防水性能を備える。さらに時計の質感のコントラストを際立たせる、光沢仕上げとソフト仕上げのカーフスキンストラップが付属する。

Cartier Tressage watch
© Cartier

Cartier Tressage
© Cartier

カルティエスーパーコピー 代金引換優良サイトの新作ラインナップにおいて、最も彫刻的かつ技術的に複雑な1本が、このパンテールハイジュエリーウォッチである。バングルとウォッチを融合させたハイブリッドなトワ・エ・モワ形式を採用。1体のパンテールがジェムセッティングを施したタイムディスプレイに向かい合うつくりになっている。WGとYGの2種が用意され、WGモデルは1103個(計11.9ct)のブリリアントカットダイヤモンドによるスノーセッティングをあしらい、パンテールはエメラルドの目、オニキスの鼻、毛並みを模したオニキススポットを特徴とする。この毛並みの表現には、石ごとに金属を折り曲げて固定することで、本物の毛皮の質感を再現する独自技法が用いられている。対してYGモデルはブラックラッカーによるスポットとツァボライトの目、23個(計0.78ct)のダイヤモンドを配したダイヤル、12時位置に単独でセットされたダイヤモンドが特徴。いずれのモデルもクォーツムーブメントを搭載し、30m防水仕様。150mm、160mm、170mmの3サイズが用意されている。

Cartier Panthère bangle
© Cartier

カルティエのウィメンズウォッチにおける、事実上の中核モデルであるパンテール ドゥ カルティエは、しなやかなブリックリンクブレスレットとミニマルなスクエアケースによって、時計でありながらジュエリーとしての存在感も併せ持つアイコンだ。その最新作では、ゼブラともタイガーとも捉えられる抽象的なアニマル柄を、手作業によるラッカー仕上げと精緻なジェムセッティングによって表現。豊かなテクスチャーとまるで実体がないかのような独特の質感を生み出している。セミパヴェ仕様のパンテール ドゥ カルティエではさらにデイリーに使いやすく、汎用性の高いモデルがそろう。YGまたはピンクゴールドで展開され、ケースサイズは25×20mm、30.3×22mm、36.5×26.7mmの3種類を用意。いずれもシルバーダイヤルにブルースティール製の剣型針、そしてカルティエのシグネチャーであるブリックリンクブレスレットを備える。ダイヤモンドはベゼルおよびブレスレット外側のリンクにセッティングされ、総カラット数はサイズにより1.07ctから3.49ctまで異なる。なおすべてのモデルにクォーツムーブメントを搭載。

Panthere de Cartier
© Cartier

Panthere de Cartier
© Cartier

我々の考え
新しいWatches & Wondersが開幕し、新作ウォッチが次々と登場する中、カルティエで依然として注目を集めているのは、そう、やはりパンテールである。だからといって、流行性がこの堅実な定番モデルの価値を損なうことはない。SKUが“ヒーロー”プロダクトとなるのには理由がある。広く知られ誰もが知る存在となることこそ、プロダクトデザインにおける成功の頂点とも言える。カルティエがこの成功したレシピをアレンジし続けていることを、誰が責められるだろうか。もうひとつ、驚くべきことでもないが、私は依然としてダイヤモンドに弱い。つまり実機を見る前に書くレビューは、どうしても批判的に響きがちである。でも実際に手に取ってみると、その輝きにすっかり心を奪われてしまうのだ。

Rose gold Panthère de Cartier
© Cartier

カルティエの成功を支えるコア・コレクションがある一方で、ジュエリーウォッチの分野では常に落ち着くことなく、豊かな想像力を発揮し続けている。その好例が、この愛らしくもふっくらとしたジェムセッティングを施したトレサージュである。どこかユニコーンの角や円錐形の貝殻を思わせるフォルムで、イギリス人ならマシュマロのフランプス(Flumps)、アメリカ人ならプルン・アンド・ピール・ツイズラーズ(Pull 'N' Peel Twizzlers)を連想するかもしれない。その雰囲気は、『ダイナスティ(原題:Dynasty)』や『ダラス(原題:Dallas)』といった1980年代のソープオペラ(連続ドラマ)そのものだ。これは決して揶揄ではなく、むしろ称賛である。80年代はファッションとジュエリーにおいては創造性に満ちた時代であり、華やかさと過剰さ、そして少しばかりの成金趣味が同居していた。カルティエはそうした古きよきクラシックと、新しい解釈とのあいだの境界線を見事に行き来しているように思う。私の目には、この時計はヴィンテージにインスパイアされながらも、同時に新鮮で彫刻的、そしてモダンに映るのだ。

Cartier Tressage
© Cartier

ジュエリーウォッチは、時計購入者層のなかでもごく限られた人々のために存在する。しかし、その楽しさや華やかさを鑑賞することは誰にでもできる。とはいえパンテールはすでに時計としての機能を超え、ひとつのデザインオブジェとなっている。その成功は、カルティエが持つフォルム、プロポーション、そしてブランディングの巧みさに支えられている。機械的な複雑さを求めるピュリストにとっては物足りないかもしれないが、パンテールが示しているのは、別の形のウォッチメイキングだ。ムーブメントの設計以上に、ビジュアルの言語性や文化的な共鳴が重要な意味を持つ世界なのである。

Watches & Wondersからは今後も続々と情報が届く予定だ。すべての新作情報は、引き続きこちらでチェックして欲しい。

基本情報
ブランド: カルティエ(Cartier)
モデル名:
トレサージュ ドゥ カルティエ - イエローゴールド
トレサージュ ドゥ カルティエ - ホワイトゴールド フルパヴェ
トレサージュ ドゥ カルティエ - イエロー&ホワイトゴールド
トレサージュ ドゥ カルティエ - ホワイトゴールド×サファイア
パンテール ジュエリーウォッチ - ホワイトゴールド
パンテール ジュエリーウォッチ - イエローゴールド
パンテール ドゥ カルティエ - フルセット ピンクゴールド
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ ピンクゴールド(スモール)
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ ピンクゴールド(ミディアム)
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ イエローゴールド(ミディアム)
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ イエローゴールド(ラージ)

ムーブメント情報
キャリバー: すべてクォーツ
機能: 時・分表示

価格 & 発売時期
価格:
トレサージュ ドゥ カルティエ - イエローゴールド、633万6000円
トレサージュ ドゥ カルティエ - ホワイトゴールド フルパヴェ、1940万4000円
トレサージュ ドゥ カルティエ - イエロー&ホワイトゴールド、1201万2000円
トレサージュ ドゥ カルティエ - ホワイトゴールド×サファイア、2112万円
パンテール ジュエリーウォッチ - ホワイトゴールド、3260万4000円
パンテール ジュエリーウォッチ - イエローゴールド、1234万2000円
パンテール ドゥ カルティエ - フルセット ピンクゴールド、2376万円
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ ピンクゴールド(スモール)、557万4000円
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ ピンクゴールド(ミディアム)、712万8000円
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ イエローゴールド(スモール)、712万8000円
パンテール ドゥ カルティエ - セミパヴェ イエローゴールド(ミディアム)、858万円
すべて税込予価