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今やヴァシュロン・コンスタンタンを代表するアイコンとなった「ヒストリーク・アメリカン 1921」。

しかし1919年に発表されたこのモデルは、長らく、誰もが知らない時計のひとつだった。対して1921の独自性に気づいた同社は、このモデルのアイコン化を企図。果たして大きな成功を収めたのである。

HISTORIQUES AMERICAN 1921
北米市場向けを源流とする〝デザイン復刻版〟の嚆矢
ヒストリーク・アメリカン 1921
ヒストリーク・アメリカン 1921
2009年に発表された新しい「アメリカン 1921」。新規設計のCal.4400 ASを搭載することで、今風の40mmサイズを実現した。手巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間、18KPGケース(縦40×横40mm、厚さ8.06mm)。3気圧防水。602万8000円(税込み)。
 1921年に発表された「アメリカン 1921」は、2009年のSIHHで再びカタログモデルに返り咲いた。可能にしたのは、過去のアーカイブをひもとく地道な作業と、マニュファクチュールとしての熟成、そして優れたデザイナーたちだった。

リシャールミル スーパーコピー届けします!クリスチャン・セルモニはこう語る。「20世紀初頭、実に様々な“アメリカン”が発表されました。私たちはその中から、再構築するうえで残したい要素を厳選しました。例えば、実用性を考慮してリュウズは1時位置に、エレガントさを加えるためにラグは現在の形状に、クラシックなデザインを活かし文字盤にはペイントによるアラビア数字をといった具合にです」。

ヒストリーク・アメリカン 1921
古典的なレイルウェイトラックをあしらった文字盤。黒い時分針は、なんと18KWG製。立体的な造形が、本作のクラシック感を強調する。
ヒストリーク・アメリカン 1921
今のヴァシュロン・コンスタンタンは、表面を荒らした文字盤に冴えを見せる。本作では、目の細かいオパラインではなく、より荒れの強いグレイン文字盤を採用。それにもかかわらず、印字はかなり明瞭だ。
 このモデルで注目すべきは、文字盤の配置だ。スモールセコンドの位置は1921年のモデルに同じだが、文字盤を90度回転させて、リュウズを1時位置に設けたのである。結果として新しいアメリカン 1921は、ユニークなデザインはそのままに、実用性を大きく増したのである。本作が定番になったのは当然だろう。

ヒストリーク・アメリカン 1921

ミドルケース。厚みはオリジナルの1921にほぼ同じだが、ケースの四隅を大きく落とすことで、今風の立体感を巧みに加えている。
 本作が搭載するのは、当時新規に設計されたCal.4400。現行品としては珍しい直径28mmの手巻きムーブメントは、クラシカルな1921にはうってつけだ。そして、大きなムーブメントを採用することで、新しい1921は、適切な位置にスモールセコンドを持てるようになったのである。仮に小径の1400(これは紛れもなく傑作だが)しかなかったなら、1921のリバイバルは不可能だったに違いない。

 そして外装は、現代のヴァシュロン・コンスタンタンらしく凝ったディテールに満ちている。表面を荒らしたグレイン仕上げの文字盤や、あえて黒く仕上げられた立体的な18KWG製の“ブレゲ針”などは、本作を単なる復刻版ではないものとしている。

ヒストリーク・アメリカン 1921
搭載するのは2009年に発表された手巻きのCal.4400 AS。約65時間という長いパワーリザーブと、2万8800振動/時という高い振動数は新しい1921に優れた実用性をもたらした。
ヒストリーク・アメリカン 1921
オリジナルとの大きな違いはラグだ。複雑な造形を持つ1921年モデルに対して、2009年版のラグはストレートである。代わりにラグにキャップを被せることで、オリジナルとの継承性を演出してみせた。また、今の時計らしく、バネ棒にはわずかに曲げが加えられた。ケースサイズは40mmもあるが、ラグが極端に短いため、装着感は良好である。

HISTORIQUES AMERICAN 1921
洗練の度を増したスモールケースのバリエーション
ヒストリーク・アメリカン 1921
ヒストリーク・アメリカン 1921
2017年初出。40mmサイズのデザインを保ちつつも、ケースを36.5mmに縮小した結果、女性や腕の細い人にも向く。手巻き(Cal.4400AS)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KPGケース(縦36.5×横36.5mm、厚さ7.41mm)。30m防水。497万2000円(税込み)。
 アメリカン 1921のヒットを受けて、ヴァシュロン・コンスタンタンはバリエーション違いを追加した。2017年に発表されたのが、36.5mmケースの“小さな”アメリカン 1921である。搭載するのは、40mmサイズに同じくCal.4400。しかし、そのプロポーションは大径モデルとほぼ同じに見える。

 セルモニはこう説明する。「ヒストリーク・アメリカン 1921は発表当時の顧客の好みを反映した約40mm径というかなり大きめのケースで製作されました。その後、より小さいサイズの製作が理にかなっていると考え、2017年にはヒストリーク・アメリカン 1921に心を寄せてくださる女性をはじめとする、幅広い方々の腕元に寄り添うことができるサイズを発表しました」。

ヒストリーク・アメリカン 1921
40mmサイズに比べて、スモールセコンドの造形もわずかに強調された。数字が外周に寄せられたほか、筋目仕上げも強めに施されている。また、レイルウェイトラックのラインも太めだ。
ヒストリーク・アメリカン 1921
ケースの幅が36.5mmとわずかに小さくなった本作。しかしそのデザインバランスは40mmサイズとほぼ変わりない。注目すべきは、ディテールの細かな見直しだ。文字盤が小さくなったことに伴い、レイルウェイトラックはわずかに太くされているのが分かる。
 異なるサイズの時計を同じようなイメージに見せるヴァシュロン・コンスタンタンの手腕は傑出している。文字盤をわずかに小さくするだけでなく、スモールセコンドを小径化することで、文字盤のバランスはほぼ保たれた。その一方で、ケースの四隅の落ち込みを強くして、時計全体が平板に見えないようにしている。加えて、裏蓋の厚みを増すことで、ラグの取り付け位置をわずかに上げている。

ヒストリーク・アメリカン 1921

ミドルケース。小さなサイズを考慮してか、四隅の落ち込みはわずかに抑えられた。加えて、裏蓋を厚くすることで、ラグの取り付け位置をケースの上方に移動させている。できるだけ同じプロポーションに見せるための配慮か。
 もっともデザインには微妙に手が加えられた。ストラップの幅は女性を意識したためか、40mmモデルの22mm幅に対して、18mm幅に抑えられた。また18KWG製の針も、わずかに太くされたほか、長針は先端が短くカットされた。小径でも視認性を高めるためだろう。

 1921のデザインが際立っていたことは事実だ。しかし、このモデルが今のアイコンとなったのは、36.5mmケースの本作が示すとおり、デザイナーたちの非凡な手腕があればこそだろう。アメリカン 1921が示すのは、ヴァシュロン・コンスタンタンの豊かな歩み、つまりは伝統なのである。

アルパイン イーグル XL クロノのチタンモデルとスティールモデルの違いは素材だけではない。

ローヌブルーの魅力的な文字盤も、相違点のひとつである。卓越した精度は新作でも維持されている。

ローヌブルーの虹彩
 何故時計を身に着けるのか? 正確な時刻を知るため、人に好印象を与えるため、自身で愛でるためなど、さまざまな理由があるだろう。こうしたニーズをすべて満たすのが、ショパールの「アルパイン イーグル XL クロノ」のチタンモデルである。高い品質を備えていることはいうまでもない。

魅力的な文字盤
ショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」

目を逸らすのに骨が折れるほど美しい文字盤。ローヌブルーの文字盤は、ワシの虹彩を思わせる模様が極めて魅力的。この写真は組み立て風景を写したものだ。
 時計を身に着ける理由に、まずは自身で愛でるためを挙げたい。その例に、2019年に発表されたショパールの「アルパイン イーグル」を取り上げよう。この腕時計は、比類するものがないといえるほど、美しい文字盤を備えている。文字盤上の荒々しく野生的なラインが流れていく模様は、それまで見たことのないものだった。途中で繊細に途切れながら幅が変化するラインは、一見、ランダムに見える。だが実際は規則的なパターンを持ち、光が当たると独特な反射を生む。

 ショパールは、文字盤のテクスチャーをワシの目の虹彩になぞらえた。しかしながら、文字盤の出来は実際のワシの目よりも、パテックフィリップ スーパーコピー 届けしますはるかに目を見張るものだ。

 アルパイン イーグル XL クロノのチタンモデルに採用された、文字盤の氷を連想させるブルーは、ローヌブルーと名付けられた。このカラーは、アルパインイーグルの“虹彩”パターンと相性が良い。アルプス山脈に源を発し、ブランドの本拠地、ジュネーブのレマン湖へと流れ込むローヌ川の、澄んだ冷たい渓流に着想を得たものである。

オリジナルを踏襲した意匠
 アルパイン イーグル XL クロノは、文字盤だけが優れているわけではない。特徴的なベゼルを備えたスポーティーなケースも強い印象をもたらす。ベゼルはケース同様、グレード5チタン製で、縦方向に繊細なヘアライン模様が施されている。ここに、ネジ頭にポリッシュ仕上げを施した8本のビスが配され、明確なコントラストを生み出している。ネジ頭のマイナスの溝はすべて向きがそろっている。どこかで見覚えのある特徴かもしれない。だが、ショパールは他ブランドの腕時計に範を求めたわけではない。

 アルパイン イーグルのデザインは、1980年に発表されたショパール初のスティール製ウォッチ「サンモリッツ」がオリジナルだ。当時のトレンドを反映したサンモリッツは、アルパイン イーグルよりもエレガントな印象を覚える。中央のコマがポリッシュで仕上げられた1連ブレスレットを備え、ベゼルに配された8本のビスは、周囲がこぶに囲まれたような、特徴的なフォルムだった。アルパイン イーグルではこの形状は踏襲されていないが、ケース左端にある、ふたつのふくらみがわずかにその名残をとどめている。このふくらみは、右側のリュウズガードに対する視覚的なカウンターウェイトの役割を担っている。

 ショパールは、サンモリッツのエッセンスに現代的な解釈を加え、時流に合った魅力的なラグジュアリースポーツウォッチを作り上げた。堂々たるアルパイン イーグルは自信に満ちあふれ、直径は41㎜と、多くの人の手首にフィットすると考えられるサイズだ。

クロノメーター規格の高精度ムーブメント
ショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」
アルパイン・イーグル・ファウンデーションのロゴが印されたトランスパレント仕様のケースバック。ダングステン製センターローターを搭載したクロノグラフムーブメント、Cal.Chopard 03.05-Cの動きを鑑賞することができる。
 腕時計を身に着ける別の理由のひとつに、正確な時刻を知ることがある。今回のテストウォッチに搭載されている自社製ムーブメント、キャリバーCHOPARD 03.05-Cはこれを保証するばかりか、約60時間のパワーリザーブを備えるなど、今日、ユーザーの多くがマニュファクチュールムーブメントに求める要件をきちんと満たしたものだ。ムーブメントはシースルーバックから観察することができる。

 アルパイン・イーグル・ファウンデーション(アルプスの環境と生物多様性を保護するために、ショパールの共同社長、カール-フリードリッヒ・ショイフレが共同設立した財団)のロゴが印されたサファイアクリスタル製ケースバックが、石数とブランド名が刻印されたローターブリッジの真上に位置している。そのため、これらの文言をはっきりと判読できないということが、この腕時計で唯一、残念な点である。

 だが、このケースバック越しでも、厚さ7.6mmの自動巻きムーブメントのテンプやアンクルが動く様子を十分に鑑賞することができる。ルーペを使えば、クロノグラフをスタート/ストップさせたときに、コラムホイールがひとつずつ送られていく様子を見て楽しむことだって可能だ。

特許を取得した数々の技術
Cal.Chopard 03.05-C
Cal.Chopard 03.05-Cは、ショパールの「L.U.C」シリーズ向けムーブメント、Cal.L.U.C 03.03-Lの仕様違いのものだ。
 クロノグラフのリセットは、エラスティックアームを備えた3つのハンマーによって正確に行われる。垂直クラッチや、スタート時の針飛びを抑える機構、リバーサーはこのムーブメントの特徴だ。ショパールによると、このリバーサーはエネルギー損失を低減し、香箱へのエネルギー伝達を迅速に行えるように設計されているという。パワーリザーブは今日のユーザーの要望に合わせ、約60時間まで延長された。テンプは緩急針の調整ネジで微調整する。

 ショパールがムーブメントに華美な装飾を施す誘惑に負けなかったのはありがたい。シンプルながらも高級感のある仕上げは、この腕時計の持つスポーティーな性格にふさわしい。搭載ムーブメントは、スイス公式クロノメーター検定機関COSCから認定され、高い精度が約束されている。ウィッチ製歩度測定器もそれを証明してくれた。アルパイン イーグル XL クロノの平均日差はごくわずかで、ムーブメントが多くのエネルギーを必要とするクロノグラフ作動時も、マイナス1秒/日というわずかなマイナス傾向を示すにとどまった。最大姿勢差がわずか2〜3秒/日であることを合わせると、これ以上ない秀逸な精度である。

快適な装着感と良好な視認
ショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」
「アルパイン イーグル XL クロノ」のチタンモデルは軽量ながら軽すぎず、適度な重みがあることで、装着感が抜群である。
 アルパイン イーグルの装着感は極めて快適である。グレード5チタン製ケースとラバーストラップという組み合わせにより、総重量はステンレススティール製ブレスレットを装備した同モデルより、おおよそ30%ほど軽量化されている。それでも、身に着けていることを忘れてしまうほど超軽量ということもなく、心地よい重みが感じられる。これは、アルパイン イーグルのような重厚な時計では重要な要素だろう。今日、チタン製ケースを採用している多くのブランドと同じように、ショパールもグレード2の純チタンではなく、グレード5のチタンを採用している。グレード5チタンは、アルミニウムとバナジウムを添加することで、耐食性と耐塩水性を高めた合金だ。

 アルパイン イーグル XL クロノは視認性も秀逸である。ファセットや、ポリッシュ仕上げが施された時針と分針は、さまざまな光の条件下でのコントラストが良好だ。針とインデックスにX1グレードのスーパールミノバが使用されていることから、暗所でも容易に判読できる。だが、明るく輝く文字盤に比べると、黒いミニッツスケールは、やや見劣りする印象が否めない。3本のクロノグラフ針は先端が赤いことから時刻表示と区別しやすい。30分積算計と日付表示はセミインスタントジャンプ式で、クロノグラフ分針は秒針がゼロに到達する2秒前に動き出し、その後、次のポジションに瞬時にジャンプする。日付ディスクは23時40分頃に回転が始まる。今回のテストウォッチではタイミングが少し早すぎて、午前0時の2分前に次の日付にジャンプしてしまった。

隠されたもうひとつのロゴ
ショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」

軽量なチタン製ケースに、ラバーストラップが装着された本作。ルーセントスティール™製モデルと同様に、ポリッシュとヘアライン仕上げが施された腕時計だ。丁寧な仕上げのラグジュアリーな腕時計でありながら、その軽量さからアクティブなシーンでも活躍する。
 ラグジュアリースポーツウォッチであるアルパイン イーグルにはラバーストラップもよく似合う。ステンレススティール製ブレスレットでは中央のコマが両サイドよりも隆起しているが、アルパイン イーグル XL クロノのチタンモデルでも、これをラグに見ることができる。ラバーストラップにもこの突起があり、ラインがバックルまでつながって見える効果を生む。加工品質の高いチタン製尾錠は着脱が容易だ。尾錠の内側にショパールの伝統的な筆記体のロゴが刻印されているのは驚くべきディテールといえるだろう。筆記体のロゴは現在、主にレディースウォッチに使用されているものだ。他方、すべて大文字のマスキュリンなロゴは、文字盤、ムーブメント、ストラップの裏側、バックルの表側など、至る所で見つけることができる。

価格は高いが品質も高い
ショパール「アルパイン イーグル XL クロノ」
©Patrick Csajko
ルーセントスティール™製ケースを備えた、「アルパイン イーグル XL クロノ」のラバーストラップを装着したモデル。採用したルーセントスティール™は、成分の80%がリサイクル由来の素材だ。
 369万6000円という価格設定についてはどう評価すべきだろうか。ショパールではルーセントスティール™と呼ばれるステンレススティールを用いたモデルは、ラバーストラップ付きで297万円と、その差は約25%である。チタンは加工が難しく、高価な材料とはいえ、高額である。ショパールの時計の品質が極めて高いことは言うまでもない。また、価格設定がラグジュアリーウォッチの価値を決定づける側面があるのも否めない。

 ショパールは2019年に初代アルパイン イーグルを発表し、ラグジュアリースポーツウォッチの分野に参入した。すでにマーケットリーダーとして確立されていたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」やパテック フィリップの「ノーチラス」に並ぶモデルとして登場したのである。両者ほど知名度が高くなくても、より高額なクロノグラフも市場には存在する。それを思えば、アルパイン イーグルが価格に見合う価値を持つ腕時計であることに疑念の余地はない。購入すれば長く楽しむことができる。リセールバリューについては、先に挙げたブランドとはジャンルが異なると考えるべきだろう。さらに、ショパールはこの時計の収益の一部を、先述のアルパイン・イーグル・ファウンデーションに寄付していることから、ショパールブティックでしか手に入らないアルパイン イーグル XL クロノのチタンモデルを購入する愛好家は、環境や自然保護に貢献することにもなるのである。

セイコー5スポーツ「SKX」のレディースモデルを着用レビュー

半世紀を超えて世界中で愛され続けてきたセイコー5スポーツの、レディースモデルを着用レビューする。径28mmのコロンとしたケースに爽やかなライトブルー文字盤を組み合わせた本作は可愛くて実用性に優れていると同時に、レディースウォッチ市場のいっそうの多様化を感じさせるとあって、時計愛好家の女性にお勧めしたい1本である。

セイコー5スポーツ「SKX series」の新作レディースモデル
セイコー5スポーツ レディース

セイコー5スポーツ「SKX series」Ref.SRRA001
自動巻き(Cal.2R06)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径28mm、厚さ11.2mm)。10気圧防水。4万2900円(税込み)。
セイコー5スポーツは、1968年にセイコーコピー Nランク 代金引換から誕生した。1963年に発売された「セイコー スポーツマチック5(通称セイコーファイブ)」をルーツとした腕時計で、このセイコーファイブは「自動巻き」「防水性」「3時位置のデイデイト表示の小窓」「4時位置のリュウズ」「耐久性に優れたケースとバンド」という、5つの機能を備えていた。このセイコーファイブの5つの機能とともに、いっそうのスペックアップとスポーティーなデザインを有して誕生したのがセイコー5スポーツであり、現在もそれらの機能を受け継ぎつつ、同時に現代を象徴する「5つのスタイル」をデザインコンセプトとしたブランドである。

そんなセイコー5スポーツはこれまで「手の届きやすい価格で販売されているメンズ向けの機械式時計」というイメージが強かった。しかし2024年、ダイバーズウォッチ「62MAS」をオリジナルとした、世界的に人気の「SKXモデル」がベースとなる「SKX series」より、5種のレディース向けモデルが追加されたのだ。今回着用レビューするのは、その新作モデルのうち、Ref.SRRA001だ。セイコー5スポーツのアイコニックな意匠はそのままに、ケースを28mm径と小さくし、かつ爽やかなライトブルー文字盤をまとった本作のディテールを紹介していこう。

セイコー5スポーツに加わった「可愛い」選択肢
セイコー5スポーツ レディース
文字盤の色とマッチする、パープルのニットワンピースを着て撮影したカット。曜日表示が日本語表記なのがユニークで、個人的に最も気に入ったディテールとなった。欧文表記にも対応しているので、好きな方を選びたい。
2024年、セイコー5スポーツのラインナップに新しく加わったこのRef.SRRA001を着用レビューするとなった時にセイコー公式ホームページを確認した際は、正面画像しか掲載されていないこともあり、何の感想も持たなかった。しかし、実機を手にしてビックリ。なんと可愛いモデルであるか、と驚かされた。

前述した通り、セイコー5スポーツは5つの機能を初代モデルから受け継いでおり、4時位置のリュウズや3時位置のデイデイト表示の小窓といったアイコニックな要素が、新作となるこのモデルにも採用されている。さらにSKXがダイバーズウォッチをオリジナルとすることから、回転ベゼルこそ持たないものの、蓄光塗料を施した特徴的なインデックスや大きく見やすい時分針を備えていることも、他のバリエーションモデルと同様だ。しかし、本作を手にしてまず思ったのが「スポーティーなのに可愛い」だ。

この「可愛い」というのは多分に主観も入っているものの、そう思わせる要因としてサイズ感が挙げられるだろう。本作は直径28mmと小径サイズであり、ケースに合わせてブレスレットやバックルも正面から見て細身に仕立てられている。一方で自動巻きムーブメントを搭載していることからケースバックは厚みを持っており、この厚み由来のコロンとした形状によって、クォーツムーブメントを搭載したエレガントなレディースウォッチとはまた違った雰囲気を備えている。

セイコー5スポーツ レディース

厚みのあるケースバックは野暮ったいといった意見もあるかもしれないが、私はこのコロンとした見た目が気に入った。サイズが小さく軽いので、着用感も悪くない。ただ、薄型レディースウォッチを普段使いしているユーザーにとっては、最初はこの厚みは気になるかも。
また、4万2900円(税込み)という価格ながら、文字盤の出来が良いことに驚かされた。カラーはヴィヴィッドではなく、少しくすんだライトブルーで、サンレイ仕上げが施されることで着用中に手首の向きを変える度、文字盤上に光の筋が走った。加えてピンクゴールドカラーに縁どられた針やインデックス、ロゴは高級感に寄与しており、かつ「SEIKO」ロゴとインデックスは立体感を有している。

他のSKX seriesとは明らかに異なる「可愛い」意匠によって、これまで男性がほとんどであったと思われるセイコー5スポーツに、女性ファンが参入していくことになるだろう。

セイコー5スポーツ レディース
ブレスレットも細身に仕立てられているものの、スポーツウォッチという立ち位置もあり、堅牢さを思わせるしっかりとしたつくりだ。サテン仕上げとポリッシュ仕上げがコンビネーションされたブレスレットは、手元で時おり輝き、着用中についつい目を引かれてしまった。
セイコー5スポーツ レディース
バックルが大きすぎないので、特にデスクワークの邪魔になるようなこともなかった。開閉もスムーズ。なお、微調整機構は搭載されていない。

毎日使いたくなる機械式腕時計であるということ
本作の美点は「可愛い」にとどまらない。ちゃんと「使える機械式腕時計」だ。実用性に優れている、ということである。

本作はダイバーズウォッチを出自とするSKX seriesだけあり、10気圧という心強い防水性を備えている。また、ケースやブレスレットは堅牢で、ステンレススティール製であることやベーシックな販売価格ということもあり、傷を過度に気にせず使えるのがありがたい。デイリーユースにも好適なレディースウォッチと言えるだろう。

レディースウォッチではそう多くない日付と曜日表示機能を有しており、かつ視認性の高い文字盤というのも実用性に優れるポイントだ。インデックスや時分針が大きいことが手伝って、強い光源下で針が文字盤に埋没して見にくくなったり、反対に暗所で時刻が分からなくなったりすることはなかった。

4時位置のリュウズはねじ込み式。リュウズガードに埋まっているものの、その取り出しや操作に難はなく、操作の際にリュウズに入れられた切り込みによって指の腹が痛くなることもなかった。針回しの感触も良い。

セイコー5スポーツ レディース
リュウズは4時位置。まったく手の甲に当たらないということはないものの、大きく干渉せず、またリュウズガードのエッジは立っていないため、肌当たりが滑らかだ。
搭載する自動巻きムーブメントはCal.2R06である。パワーリザーブ約40時間と、現在の機械式腕時計のスタンダードが約70時間になりつつあることを鑑みれば短い気もするが、小径サイズであることや、税込み4万2900円という販売価格からしてみれば妥当である。正確な精度は計測していないものの、3日間着用した時点で時間を確認したところ、1分程度進みが見られた。

“ベーシックなレディース向けの機械式腕時計”として好適な1本
レディース向けの機械式腕時計は、非常にニッチと言って良い。高級腕時計ブランドを中心にそのラインナップは増えているものの、10万円以下で購入できるものとなるとオリエントスターなど、一部ブランドの製品に限られてくる。そんな中で今回着用レビューしたセイコー5スポーツ「SKX series」Ref.SRRA001は、このニッチな市場に新たなる選択肢として追加された、可愛くて、実用面でも毎日使える機械式腕時計である。

こういったポジションのモデルというのは、初めて機械式腕時計を購入する女性はもちろん、これまで何本かの腕時計を購入してきた、愛好家と呼ばれるような女性にも勧めたい。なぜなら腕時計、特にレディース向けの機械式腕時計の購入を検討してきた女性は、“ベーシックなレディース向けの機械式腕時計”が稀少な存在であることを知っていると同時に、こういった新しいポジショニングが確立されたことで、レディースウォッチ市場が広く多様になっていることを実感できると思うためだ。

この新作モデルを皮切りに、可愛くて、実用面からも価格面からも毎日使うのにふさわしい機械式腕時計の波が、いっそう広がってほしい。

ブラックケースウォッチの進化と技術に迫る

オールブラックの時計ケースはモダンさ、ステルス性、そしていわゆる“タクティクール(戦術的な装備や服装などをクールでスタイリッシュなものとして楽しむ文化)”の象徴である。これは何世紀にもわたる、豪華で光沢のある貴金属に対抗するものだ。少し大げさかもしれないが、時計のトレンドが周期的に繰り返されるなかで、ブラックの時計ケースやオールブラックの美学がその持続力を証明してきたことは間違いない。

MB&F HM3 PVD
MB&F HM3 ポイズン ダーク フロッグは、ブラックPVDコーティングを施したジルコニウム製ケースを備えている。

極上スーパーコピー時計代引き専門店そら~この流れが時計業界のどこで始まったのか。ウォッチメイキングにおける多くの素材革新は、技術的な要求から生まれたのに対し、オールブラックウォッチのコンセプトは純粋に美的な観点から来ているようだ。そしてそれは1970年代に強く浸透していった。

Enicar and Porsche Design
 多くの情報源によれば、最初のブラックウォッチケースは伝説的なフェルディナント・ポルシェの発想によるポルシェデザイン クロノグラフ1に起源があるとされている。しかしオン・ザ・ダッシュ(OnTheDash)のジェフ・スタイン(Jeff Stein)氏は、ホイヤーのブラックコーティングモナコに関する2021年のHODINKEEの記事に見解を述べ、異議を唱えている。どうやら、1972年に登場した象徴的なクロノグラフ1よりも前に、エニカが1960年代後半にエニカ シェルパ OPSを発表して数年先取りしていたようなのだ。

Heuer Dark Lord
ホイヤー モナコ “ダーク ロード”は、最も有名なブラックコーティングのヴィンテージウォッチのひとつ。これは2017年にモーガン・キング(Morgan King)氏のコレクションで見られたものだ。

 そして時は流れて現代へ。今日では、さまざまな価格帯や目的に応じて、ブランドがブラックウォッチケースを実現できる多くの製造技術や素材が存在する。今回は、ブラック仕上げを達成するために用いられるコーティングや表面処理に関する3つの主要な方法を紹介していく。後編ではこの分野における素晴らしい素材について取り上げる予定だ。

物理蒸着(PVD)
 物理蒸着(Physical Vapor Deposition)は、時計業界でブラックケースを実現するために最も広く使われている方法だ。この技術はさらに具体的な複数の手法を含む広義の用語であるが、ここでは時計においてよく用いられるアークイオンプレーティングに焦点を当てる。

Hamilton Khaki Field PVD
ハミルトン カーキ フィールド チタニウム オートは、ブラックPVDコーティングを施したケースを備えている。

 真空チャンバー内に、固体状態のコーティング用化合物(ジルコニウムやチタン窒化物が多い)と時計ケースを配置する。チャンバーが加熱されると、アークエネルギーが放出されて、コーティング用の化合物が気体に変化する。この気体がプラズマという状態になり、コーティングの成分にプラスの電荷が与えられるのだ。

 次に、時計ケースにマイナス電圧が加えられる。真空チャンバー内で飛び交うコーティング粒子はプラスに帯電しているため、マイナス帯電したケースの表面に引き寄せられ、薄く均一なコーティングが形成される。これが冷却されれば完成だ! ブラックケースの誕生である。

PVD Machine
アメリカに拠点を置く専門メーカー、ベイパーテック社のPVDチャンバーの一例。

 時計ケースの処理において、耐久性と硬度について触れないわけにはいかない。比較のために、316Lスティールの硬度はビッカース硬度で約150HVである。多くのPVDサプライヤーのウェブサイトを見ると、一般的なPVD処理では2500〜2800HVの硬度が得られるようだ。耐久性の観点から言うと、PVDは今日取り上げる3つの処理方法のなかで最も耐久性が低い。個人的な経験では、私が所有していた多くのブラックPVDコーティングの時計は1年も経たずに摩耗が見られるようになった。これもひとつの魅力かもしれないが、時計のコンディションにこだわる人にはPVDは向かないかもしれない。それにもかかわらず、PVDは生産コストが低いためとても魅力的な選択肢となり得る。たとえばタイメックスやスウォッチのようなブランドでは、PVDコーティングされたSSケースの時計がエントリークラスの価格帯で手に入る。これにより多くの手ごろな価格の時計でブラック仕上げを楽しむことができるのだ。

Brew Watches Metric Black
ブリューウォッチ メトリックはブラックPVD仕上げ。

 近年では生産方法が大幅に改善され、大量生産を効率的に管理できるようになってきた。これによりコストの削減だけでなく、製品の一貫性や品質の向上も期待できる。「最近訪問した製造現場では、生産と結果のボリュームや一貫性を管理するための新しい技術が導入されているのを見て、とても興奮しました」と、ブリューウォッチのデザイナー兼創設者であるジョナサン・フェラー(Jonathan Ferrer)氏は語る。彼は、時計ケースのような部品を真空チャンバーに入れてプレーティング処理を行う前に必要な、数多くの準備工程を明かした。「時間のかかる課題は、すべての部品を手作業でコンポーネントツリーに配置することでした」とフェラー氏は説明する。コンポーネントツリーとは、真空チャンバー内でさまざまな部品を固定するために使われるワイヤーラックである。現在ではこの工程が完全にオートメーション化され、クリーンな環境でのスピードと精度が向上したと同氏は述べている。

Vacuum Chamber
PVDコーティングチャンバー(左)とオートマスキングマシン(右)。

Solution Masking
Images courtesy of Jonathan Ferrer.

 最近改善されたもうひとつのプロセスはマスキングだという。これはコーティングしたくない部品の一部を覆う作業だ。以前の手作業での細かいプロセスに代わり、フェラー氏によれば「今では機械が時計のブレスレットやケースをスキャンし、シリコン溶液を注入して、コーティングや仕上げの前に部品をマスキングしてくれる」とのことだ。これにより従業員が小さな部分をひとつずつテープで覆う必要がなくなった。

ダイヤモンドライクカーボン(DLC)
 では、DLCとPVDの違いは何だろうか? ブラックコーティングされた時計について話すとき、これら2つの仕上げがよく取り上げられる。しばしばDLCのほうが“優れている”と耳にすることがあるが、技術的には両者は同じ基準で比較できるものではない。DLCはコーティング材料であり、その適用方法として物理蒸着(PVD)を使用することもできる。“ダイヤモンドライクカーボン”とは、主に炭素原子で構成されたコーティング化合物を指している。

Chronoswiss Open Gear Resec 'Candy Shop'
クロノスイス オープンギア レ・セック “キャンディーショップ”。DLCコーティングされたケースが最大限の視覚的インパクトを生み出す好例である。

 高校の化学の授業を思い出せば、同じ炭素原子で構成されていても、結晶構造が異なると構造的にまったく異なる結果を生むことがわかるだろう。たとえばグラファイト(黒鉛)の結晶構造は層状になっているため柔らかい。グラファイトの炭素原子の層は互いに強く結びついていないため、個々の層が滑り落ちやすく、まるで鉛筆で紙に書くような性質を持っている。しかしダイヤモンドの場合、炭素原子は非常に密に詰まっており、各原子が周囲の原子としっかり結びついているため、圧倒的な硬さと耐久性が生まれる。

diamond vs graphite structure
炭素原子は、ダイヤモンド(左)とグラファイト(右)では異なる配置になっている。出典はこちら。

 “ダイヤモンドライクカーボン(DLC)”はコーティング材料の観点から見ると、ダイヤモンドとグラファイトの両方の有用な特性を活かした中間的な存在と考えるとよい。純粋なDLCはsp³結合の炭素原子(ダイヤモンドの構造)のみで構成されることもあるが、時計の外観仕上げに使われるDLCにはsp²結合の炭素原子(グラファイトの構造)も含まれている可能性が高い。このようにすることで、硬度を実現しながら摩擦係数を低く抑えることができる。これらの特性を組み合わせることで、より耐久性の高い表面が得られるのだ。

MRG 5000 on rubber strap
G-SHOCKのハイエンドラインであるMR-Gシリーズのふたつのモデルでは、DLCコーティングがまったく異なる仕上げを実現している。MRG-B5000R-1では、DLCコーティングがアンスラサイトでマットな質感を持っている。

MRGB5000 Dat 55G
MRG-B5000B-1では、DLCコーティングが濃く、光沢のある仕上げとなっている。

 DLCコーティングの場合きわめて傷が付きにくい仕上げが得られ、炭素の混合比によってマットなアンスラサイトから深い光沢のブラックまで幅広い仕上げが可能である。サプライヤーのウェブサイトを見てみると、DLCコーティングの硬度は一般的に5000〜9000HVの範囲にある。参考までに、ダイヤモンドはビッカース硬度で1万HVとされている。

Unimatic Norwegian Rain
ウニマティック×ノルウェージャンレインによるU1-NRは、2021年にリリースされたコラボレーションモデルである。

 では、なぜすべてのブランドがDLCコーティングを使って、より高い耐久性を確保しないのか?

 主な理由はコストだ。私はミラノに拠点を置くウニマティック(設立当初からDLCコーティングをデザインに取り入れている)の共同創設者のひとりであるジョバンニ・モロ(Giovanni Moro)氏に話を聞いた。ジョバンニ氏は早くからブラックアウトのトレンドに魅力を感じていたと振り返り、個人的に所有しているオメガ スピードマスターにコーティングを施すことを考えていたという。DLCによる硬度の向上は望ましいが、同品質の仕上げを標準的なPVD化合物で行う場合と比較して、コストが最大で350%も高くなることがあると指摘する。それでも、ブランドはブラックケースの製品にDLCを使用することにこだわっている。

セラマイズドチタン
 最後に、現代の時計ケースで見られる表面処理のひとつにセラマイズドチタンがある。理論的には、その名のとおり両方の素材の優れた特性を兼ね備えている。セラミックの高い耐傷性と、チタンの構造的強度を維持することができるのだ。

Hodinkee x IWC
IWC パイロット・ウォッチ・マーク XVIII “ホディンキー”限定モデルはセラタニウム製である。

 最も有名なのはIWCの商標であるセラタニウムだろう。2017年に初登場したアクアタイマー・パーペチュアル・カレンダーで見られたものだ。しかし、セラマイズドチタンが特別な理由はそれがコーティングではなく(必ずしも)、ベース素材を指しているわけでもないという点だ。混乱しているだろうか? 詳しく説明しよう。

 DLCやPVDでは、別の化合物をイオン化して時計ケースに付着させるプロセスが用いられるが、IWCのセラタニウムのような素材ではまったく別の手法が使われている。ここでは、最初に切削加工されたチタン製のウォッチケースを使用する(IWCは独自の合金を採用しており、この点については後ほど詳しく触れる)。ケース(およびリューズ、プッシャー、バックルなど)の部品処理の準備が整うと、それらは窯に入れられる。ここで高温で焼成され、錬金術とも呼べる工程が進行する。IWCによれば、この次に起こるのは“相転移(金属の表面がセラミック化されること)”であるという。このステップによりパーツは非常に均一でマットな黒色となる。その響きは魅力的だが、実際には何が起こっているのだろうか?

Kiln firing
チタン合金の部品は窯で焼成され、酸化処理が行われる。

 2002年に出願されたこの米国特許は、IWCが使用するプロセスに似た方法を示しており、その背後の仕組みが垣間見えるようだ。同特許の発明者であるエドワード・ローゼンバーグ(Edward Rosenberg)氏いわく、“黒い装飾表面を持つ金属製品を形成するプロセス”には、重量比で“約51%から70%のチタン、約3%から17%のニオブ、および残りはジルコニウム、タンタル、モリブデン、ハフニウム・ジルコニウム、クロム、またはそれらの混合物からなる金属”が必要であると述べている。これらはIWCが現在使用している独自の合金を構成していると推測されるが、詳細は誰にも分からない。

 加熱の過程で、合金内のいくつかの金属が窯の酸素豊富な環境で酸化を始める。この過程で、合金からセラミックの層が成長してチタンがセラミック化される。この方法の特徴として、このセラミック層は酸化されていない下層のチタン合金と非常に強く結びつき、蒸着法と比較して剥がれにくくなる。PVDをベビーベルチーズの赤いワックスの包みと考えるなら、このセラミック化は美しいサワードウ(パン)のクラスト(パンの薄い皮の部分)が形成されるようなものだ。

 私は、高級メカニカルキーボードの製作者であり、素材にも詳しい友人のライアン・ノーバウアー(Ryan Norbauer)氏とセラタニウムについて話した。彼によると、アルミニウム製のキーボードに対して非常に耐久性があり、見た目も均一なセラミック層を形成するためにマイクロアーク酸化というプロセスを試し、PVDと同じように仕上げが磨耗しないような同様の仕上げを検討していると話した。マイクロアーク酸化は、主に消費者向け電子機器で使用され、セラタニウムのプロセスに似た結果をもたらすが少し異なる方法を用いる。このプロセスでは、熱処理の代わりに、アルカリ浴に浸した金属にアーク放電を撃ち込む電気化学的な処理が行われる。これらの違いを考慮すると、エドワード・ローゼンバーグ氏の特許が注目されるのは、“化学薬品、電解質、電気、複雑な熱処理装置を必要としない”ことにある。皮肉なことに、時計業界で現代的な素材として認識されているものが、意図的によりシンプルで原始的な方法で作られていると考えられるのだ。

Ceratanium Lifecycle
特殊なチタン合金の素材がセラタニウムケースへと変わっていく工程。

 では、セラタニウムの硬度はどれくらいなのか。IWCはこの素材の硬度を公表していないが、形成された外層が実際にセラミックであるため、PVDのようなものと比較してはるかに耐傷性が高いと言ってよいだろう。インターネット上では、セラタニウムに傷が付いたと主張する人もいるが、多くの場合セラミックやセラミック層に見られる傷は、実際にはほかの物体から金属がケースに付着したものであり、最終的には除去できることが多いようだ。主な原因はバネ棒を外す際の工具であることが多いようだが、本当にセラミック層を貫通するような傷がついた写真を見かけたことはほとんどない。現行のセラタニウム製の時計が期待どおりの状態を保ち続けるかどうかは、今後の経過を見なければ分からない。ただ現時点では、単なるマーケティング戦略以上のものであり、実際に時計製造において目に見える利益をもたらす独自の素材であるようだ。

オリス ダイバーズ65 LFP リミテッドエディションが登場

オリスはコラボレーションにおいて豊富な経験を持つブランドだ。持続可能性を重視するブレスネット(Bracenet)との提携から、私たちにとってなじみ深いしゃべるカエルとのコラボまで、ホルシュタインを拠点とするこのブランドは一切の躊躇いもなくユーモラスなデザイン要素を取り入れた製品をリリースし続けてきた。

Oris Kermit
昨年発表されたオリスのプロパイロットX “カーミットエディション”。

最信頼性のスーパーコピー時計代引き優良サイトこの流れは今なお継続しており、オリスはジュネーブ・ウォッチ・デイズの期間中にフランスのプロサッカーリーグ(LFP)およびCNAPEとのコラボレーションで、ダイバーズ65の1000本限定モデルを発表した。オリスは2022年からLFPをサステナビリティパートナーとして迎え入れ、それ以来LFPの公式タイムキーパーを務めている。

les defenseurs l'enfance
the team
 CNAPE(フランスの児童保護団体連盟)は子供の福祉問題に取り組む約200の団体からなる連盟であり、同団体によればフランス国内の40万人以上の子供に関わり、影響を与えているという。CNAPEの主な役割は、傘下の団体が直面している問題を代弁するアドボカシー活動を行うことであると私は理解している。

 CNAPEはLFPのチャリティパートナーであり、両者は毎年Tournoi des Défenseurs de l'Enfance(直訳すると、子供の守護者たちのためのトーナメント)と呼ばれるフットボールトーナメントを開催している。このイベントは子供たちや福祉関係者にとって楽しい週末を提供するとともに、CNAPEが支援する団体のための資金を調達するものである。今年、オリスはこの10本の時計を寄付し、このチャリティのための募金活動を行う予定だ

LFP Wrist Shot
 さて、時計そのものに話を戻そう。今回の限定版はレトロなデザインにインスパイアされたダイバーズ65をベースにしており、過去のバージョンを実際に見たことがあるなら、いくつかの要素に見覚えがあるはずだ。昨年にリリースされた同サイズのステンレススティール(SS)製ダイバーズ65 “コットンキャンディ”の所有者として言えることは、この時計は非常に手首になじむということである。

 時計内部にはオリスのCal.733が搭載されている。このムーブメントはセリタSW200をベースにしたものであり、より高価な自社製のCal.400ではなくセリタベースのムーブメントを採用したのは妥当な選択だと思う。特に若い層をターゲットにした楽しいデザインの時計であることを考えると、価格がオリスのラインナップのなかでも手ごろな範囲に収まっている点は評価に値する。販売価格は44万円(税込)だ。

 ケースのサイズは38mmと非常にバランスがよく、ヴィンテージ風のダイバーズウォッチとしては理想的だ。厚さは12.8mm、ラグからラグまでの長さはコンパクトな46mmであり、手首に非常にフィットする。数値上は薄型の時計ではないがこの厚さにはドーム型サファイアクリスタルが影響しており、実際のケースはよりスリムに感じられる。この時計においてとりわけ議論の的になるであろうポイントはリベットブレスレットだが、これはダイバーズ65のデザインをまとまりのあるものにしている。ブレスレットは薄いながらも頑丈で、クラスプも目立たず5段階のマイクロアジャストが可能である。

Oris LFP Side Profile
リベット付きのブレスレット。

Oris Bracelet Clasp
クラスプに手書きの文字を刻印すれば、素晴らしい演出になっただろう。

 従来モデルではケースバックにヴィンテージに見られるオリスロゴがあしらわれており、ヴィンテージ風のデザインをさらに強調している。しかし今回はケースバックに遊び心ある“les Défenseurs de l'Enfance”のロゴが刻まれ、さらにLFPリミテッドエディションであることと、1000本限定であることを示すシリアルナンバーが記載されている。

LFP Caseback
 ダイバーズ65の特徴的なデザイン要素のひとつに、SS製のエンボスベゼルがある。ケース上部のブラッシュ仕上げと組み合わせることでエンボス部分が際立ち、マットなベゼルとのコントラストが美しく仕上がっている。このように単色でありながらも視認性が高く、印象的なエンボスベゼルが実現されている。ベゼルのルックスには若干の遊びがあるが、操作感はシャープで触感も良好そのものだ。

 しかしこのコラボレーションを真に特徴づけているのは、やはり文字盤だろう。最近では、“遊び心のある”という表現がイースターエッグのような隠し要素を説明する際によく使われるが、この文字盤はその言葉をまさに体現していると言っていい。オリスは通常あしらっているブランドロゴを大きく逸脱し、子供の手書き文字らしいエッセンスを捉えた書体を採用している。ロゴに加えて文字盤上のすべての印字も光沢のある手書き風のスタイルでプリントされているが、オリスのロゴほど強調されてはいない。“Water Resistant(防水)”の表記は5色に分けられており、各文字盤にこの多色使いの文字をパッドプリントするにはかなりの手間がかかっているはずだ。これは、このトーナメントのロゴに対するオマージュにもなっている。

Oris LFP Dial
Oris LFP Dial Closeup
 この時計に採用された光沢のあるネイビーダイヤルは、控えめでありながらも論理的な選択になっている。というのも、この色もまた同トーナメントに特徴的なカラースキームを取り入れているからである。オリスによればこの色は、国連が示す17の持続可能な開発目標(SDGsだ)のひとつを象徴しているという。文章で説明されると少しこじつけのようにも感じられるが、本機の初期のムードボードにおいてこの色が重要な要素として扱われていたことは容易に想像できる。室内において文字盤は滑らかで濃い青に見えるが、屋外に持ち出すと文字盤はたちまち輝きを放ち、ラッカーの下からメタリックな色調がわずかに現れる。この動的な視覚の変化には意外性がある。

 ほかのダイバーズ65と同様に立体的なインデックスが文字盤に奥行きを与えており、金属の縁の内側には白いスーパールミノバが充填されている。これにより、ミニッツトラックや多くの文字要素が白でプリントされた文字盤とインデックスが調和している。デイト表示は6時位置に切り抜かれた窓で配置された。私は基本的にデイト窓のある時計が好みだが、今回に関してはそれがないほうがよかったかもしれないと思っている。それというのもカレンダーディスクに印刷された一般的なデイト表示が、文字盤全体のスタイリッシュなテキストと対立しているように感じられるからだ。コットンキャンディモデルでは気にならなかったが、このモデルではデイト表示がないほうがデザインとしてより完成度が高かったかもしれない。もしくはカレンダーディスクの色を文字盤に合わせていても、より素晴らしい結果になっただろう。

Oris LFP
明るい光の下では、光沢のあるラッカーの下にほんの少しメタリックな輝きが見える。

 総合的に見て、このオリスのリミテッドエディションは大成功だと思う。遊び心がありながらも過剰になっておらず、毎日つけられる特別な1本になっている。私がこの時計を見せた同僚たち全員が感心していたが、その理由は抑制の効いたデザインバランスにあると考えている。遠くから見れば装飾的な要素に気づくことはあまりないが、近くではそれらのディテールが急に魅力的に映るのだ。こんな時計がオリスのようなブランドから出るとは誰も思っていなかっただろうが、そんなブランドの存在自体をうれしく思うし、デザインの背景に確固たる理由があることも素晴らしいと思う。これは独立系ブランドから初めての高級ダイバーズウォッチを求める人にとってぴったりの選択肢であり、実際に誰かがこの時計を身につけているのを見かける日が楽しみでならない。

オリス ダイバーズ65 LFP リミテッドエディション Ref.01 733 7771 4085-Set。直径38mm、厚さ12.8mm、ラグからラグまで46mmのSS製ケースを採用。ミニッツトラックをエンボス加工した逆回転防止ベゼル。限定モデルならではの特別なディテールを施したブルー文字盤、6時位置にデイト表示窓。スーパールミノバを施した針、ロリポップ秒針、インデックス。内側に無反射コーティングを施したダブルドーム型サファイアクリスタル。1000本限定生産のシリアルナンバー入りSS製ケースバック。自動巻き、41時間パワーリザーブを持つオリスCal.733(セリタベース)。価格:44万円(税込)。

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